鰹節が大好きか?

「regret」

今日のお昼に世界が終わる。
そうテレビで言っていた。ぼくと猫はまさかと思いながら一緒に朝ごはんを採っていた。
ぼくが会社に出かけようとしていた8時頃のことだった。
突如、部屋が揺れ、ものすごく大きな音がした。一瞬の静寂の後、ガスの漏れるような音がしていることに気がついた。
ぼくは慌てて、ガスの元栓を切ろうとしたが、元栓が壊れていてどうしようもない。
猫は何が起こったのかよく分からないようで、ただ呆然としていた。
辺りにガスが充満してきた。すごい臭いだがそれどころではない。
何が起きたのかは想像することができた。十中八九、大きな地震が起こったのだろう。それも直下型のやつだ。
しかし、ぼくの想像は大きく間違っていた…


急にガスが止まった。ガスを送る元が駄目になったのだろう。
そして3分ほどしてからものすごい衝撃を体で感じることができた。
それは強烈な、今まで体感したのないような風だった。
風と言ったが、その瞬間にそう思ったわけではない。
後から考えるとそう考えざるを得ないというだけのことだ。
強風は全てを吹き飛ばした。ぼくも猫も家ごと遠くへ飛ばされた。
正確に言うのであれば、家は細かく砕け、ぼくと猫は全く別々の方角へ飛ばされていったのだった。
風に呑まれている中で妙に冷静にぼくは、猫との永遠の別れを悲しむことができた。
それは唯一の救いと言っても良いだろう。
人間(猫だが)、最後の最後に詰まらない別れ方をすると一生後悔する。
ぼくたちは、そういう意味では一瞬の間だったが別れを惜しみ、かつ、さよならという以外の方法で別れる事ができたのだ。
実に悪くなかった。


吹き飛ばされた先にはたくさんの人々がいた。いやいた。
いまはもう、人の形をしただけのものだ。


ぼくは少なからず、失意の中にあった。
全力を傾けようにも、吹き飛ばされたときに負った傷が痛んで何もできないし、またやろうという気力も沸き起こらなかった。


暫く途方にくれていると、どこからか声が聞こえた。
不思議な声だった。それは唄のようだった。
引き込まれるように唄の聞こえるほうへと近づいていくと、ぼく以外の人間を何人か見ることができた。
それはぼくに希望を与えた。
さらに近づくと、耐え難いほどの蒸し暑さを感じた。しかし、ある程度進んでしまうと暑さは失せ、心地の良い響きだけが残った。


「こんなところで何をしているんですか?」
とぼくが唄の主に尋ねると、唄はぴたりと止まってしまった。
ぼくはそのことを少しだけ失敗に思ったが、その人物は全く気にすることもないようだった。
「隕石が落ちました。今は10時過ぎです。もうすぐ、地球は滅びます。」
それだけ言うと、再び唄を唄い始めた。
ぼくは黙ってこの場を離れることにした。


暫く歩いているうちに、その時は来たようだった。
辺りがまたも静寂に包まれた。
ぼくは最後のときを待った…


まさかの次回に続く