鰹節が大好きだ!!!

「24hスーパーマーケット」

とんでもない夢を見た。
ぼくが人を殺している。
そしてそれを止めるでもなく客観的に見ているぼくがいる。
もがいた。必死に体を動かそうとする。
でも、相変わらずぼくは誰かを残忍な方法でしかも正確に殺しているし、見ている方はただ立ち尽くしている。
最初は腕を切り落とした。何か鋭利な刃物でも使っているかのようだが、ぼくは素手でそれを行っているようだ。
次は足だ。人が達磨のようになった。鮮血も手伝って色までそっくりである。


永遠とも言える時間が経っても、ぼくは誰かを完膚なきまで、粉々になるまで殺している。
たまらなくなって、大声を出そうとしても声が口から発せない。
喉が渇きすぎているのだ。水分を一滴残さず失ってしまった喉は何の言葉を生み出さず、息が通る度にかすれた音だけが生じている。
何かの拍子に夢から覚めた。


ハッと息を呑んだ。喉がからからだ。声が出ない。パジャマは汗でぐっしょりとしているし、顔にも脂汗をかいている。
ぼくはまず台所に行き、コップに水を汲んだ。1週間放っておいた食パンのように乾いて張り付いていた喉に、水はあっという間に吸い込まれていった。
そしてシャワーを浴び、汗を流し去った。
再びベッドに戻るとシーツとパジャマを洗濯して、ベランダに干した。


こうして、やるべき全ての行動を終えて、改めて今見たばかりの夢について考えた。
ドアが開いて、猫が入ってきた。
そういえば、ぼくは猫を飼っていた。
はにゃーと短く鳴き、ぼくの脚に頭をごつんとぶつけて朝の挨拶をした。
餌が欲しいのだろうと思い、台所に戻って、猫の餌を探した。ところが、どこに置いたかさっぱり思い出せない。
一体、どうしたことだろう?
ぼくは猫に、ごめんよ今餌を切らしているみたいなんだ、というと猫は言葉が分かったのか諦めて毛布の上で浅い眠りについた。
ぼくは一瞬戸惑ったが、今日が休みであることに気がついて、早朝でもやっている近所の24hスーパーマーケットまで餌を買いに行くことにした。便利なのでよく利用するのだ。


街はまだ眠っている。早朝の街は白黒映画のように見えた。そこでは鳥さえ眠っていたし、もしかするとぼく以外の人間はみんな眠っているようにすら感じた。
24hスーパーマーケットでもさすがに数人の客がいるだけだった。
缶詰の餌を買ってきた帰り、ぼくは歩きながら考えた。考え事をするときに歩くのは集中できて良いのだと聞いたことがある。
妙な違和感。今朝見た夢と何か関係があるのだろうか?猫の餌が切れたことに一人暮らしの人間が気づかないものだろうか?
餌を買って戻ると猫が言った。
「おい。君はどうしちまったんだい?まさかぼくのことを忘れたんじゃないだろうね?」
そのとき、ぼくは全てを思い出した。
ぼくは猫を飼っていたが、2ヶ月も前に逃げられていたのだ。
逃げられたという言い方はあまり正確ではないが、この際容赦して欲しい。他に言い方が見つからないのだ。
ぼくが、忘れていたと言うと、猫は言った。
「それはないんじゃないのかと言いたいところだけど、君には借りがあるし、その辺は許すさ」
そして、またよろしく頼むよ、と続けた。
ぼくは猫が戻ってきた理由について知りたいと思った。すると、まるで心を読んだかのように猫は続けた。
「ぼくがここに戻ってきたのは、君にその準備ができたからなんだ。君はこの2ヶ月間色々な目に遭ってきた。そして、考え方や生き方が変わった。ぼくがいなくても一人で生きていけることも分かった。ずっと遠くから見ていたんだ。君がさらわれるところも見た。背中の傷はもう治ったかな?それに今朝、夢にうなされているところも見たよ。もちろん助けたかったさ。でもそれはできない決まりなんだ。決まりといっても明文化されている訳ではないけどね。だけど強いて言うなら良心だろうか。そうした方が後からかなり楽になるんだよ。ぼくも、君もね。オーケーかい?」
よく分からないと言った。未だに思考が正常に働かないのだ。ぼくの頭はまるで電池の切れかけた目覚まし時計の秒針ように一向に前に進もうとしない。ちくたくと音だけはするが、前に向かう力の一切を失ってしまったかのようだった。
「そうか。まあそんなもんだろう。気にしなくていい。君の能力がほんの少し足りないだけさ。ところで君はぼくがここを出て行ったとき腹が立ったかい?」
少しだけ、でも今は気にしていない。ぼくは頷いた。能力が足りないという言葉にも腹は立たなかった。猫がぼくを馬鹿にしているわけではないことがすぐに理解できたからだ。
「そうか、それならば良かったよ。まあ、とりあえず餌をくれないかな。お腹がペコペコで死にそうなんだよ。昨日から何も食べていないんだ」
ぼくは黙って頷くと、餌箱の埃を水で洗い流して、だいぶ時が経ったんだなぁ、清潔な白い布巾で水をぬぐうとまるで昔に戻ったみたいな気がした。戻れるわけはないのだが。そして缶詰を開けてその中に入れた。


猫は猫用の餌のCMに出られそうなくらい24hスーパーマーケットで買ってきた缶詰を無我夢中で食べている。ふと、腹がぐうと鳴った。
そこで、ぼくも思い出したかのように朝食を作って食べた。
カリカリのトーストにチーズを乗せたものとヨーグルト、それに野菜ジュースを飲んだ。パンを切るときに少しためらいを覚えた。が、ちゃんと切れた。
ようやく、街が動き始めたように見えた。